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東京だと及第点なモンブラン?「栗の里の物語」を商品にする桜井甘精堂

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いけだ あやか

いけだ あやか

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こんにちは!
上田市出身、東京都在住のいけだあやか(@aaaa_ikdyk)です。
学校に通い、バイトに励み、就活に削がれている、ごく普通の女子大生です。ときどき、お菓子屋さんで記事をつくったりもしています。




今回お話をお伺いしたのは、「桜井甘精堂」第九代・桜井昌季(さくらいまさき)さん。
甘精堂さんは、創業者である桜井幾右衛門氏が栗落雁をつくり上げた二百年前をルーツにもつ、老舗中の老舗です。

はじめの一歩踏み出すときって、不安がつきものですよね。
経路を調べて電車に乗るとき、食わず嫌いにチャレンジするとき、憧れだった人に対面するとき。
自らの環境に甘んじていればいるほど、変化に対する不安も膨らむはず。
二百年つづく老舗なら、その最たる存在なのでは…?

真相をきいてくれたのは、ポニーテールがかわいらしい中山風香(なかやまふうか)さん。


安曇野市出身です。よろしくお願いします!


「小布施は砂漠」お客さまからの一言で生まれた栗の木テラス



左:中山 右:桜井さん(以下敬称略)



中山:桜井甘精堂さんの和菓子は、遠方の祖父母へのお土産としてよく使わせていただいているんですが、先日長野駅のMIDORIで「緑シュー」というものを見つけて。
どうして和菓子の老舗である桜井甘精堂が洋菓子も取り扱っているんでしょうか?

(MIDORI店限定販売の緑シュー)



桜井実は、洋菓子は一度挫折しているんです。

「栗の木テラス」という名前で洋菓子だけのお店を改装前のMIDORIで出していたんですが、タイミングが悪く、すぐに閉めてしまいました。

その時の名残として、シュークリームと、マロンフィナンシェ、マロンパイはずっとうちの商品の異物、桜井甘精堂の本来のラインから外れた商品としてずっと残っていたんです。

中山:なぜ一度挫折した洋菓子に、また挑戦しようと?

桜井:今の栗の木テラスの場所は、実は桜井甘精堂の発祥の地なんです。

その後、今の場所に会社を移転した時に、昔の店舗は倉庫になってしまったのだけれど、「発祥の地で何かしなくちゃ」という想いはずっとあって。

そんなときお客さまに言われたのが、「小布施は砂漠だ」ということ。
近くに駐車場がないから遠くに停める、そして歩いてくる、けれども景観条例の関係で小布施には自動販売機がめちゃくちゃ少ない。ちょっとのどが乾いてジュースを買うのにも一苦労。

それはあくまで町の景観を保つのに必要なんだけど、やっと見つけたオアシスが栗菓子屋だったりするのに、そこは大混雑。

ほんとにつらいんだよ、と。

中山:なるほど、お客さまならではの目線ですね。

桜井:きっかけも、ちょうどいろんなタイミングが重なったんです。
その時に趣味で紅茶を習っていて、社内でも紅茶の教室を開いたりしていて。
そこで喫茶店をやろうと。

モンブランも作ってほしいというリクエストを以前から頂いていたので、じゃあ、栗菓子屋でモンブランを作ろうぜ!、というのが上手いことリンクして、栗の木テラスが生まれたんです。

それが、桜井甘精堂が、洋菓子に本腰を入れたスタートでした。

(現在の栗の木テラス)



中山:そんなことが…!

桜井甘精堂さんは定番の商品から、フィナンシェやダックワーズなんかも揃っていて、いつも目移りしてしまうんです。小布施の栗菓子屋さんでは普通のことなんですか?

桜井:いえ、実は甘精堂の商品アイテムは、ほかの栗菓子屋さんに比べて、異常なくらい多いんです。

何故かというと、桜井甘精堂は、地元のお客さまを大事にしようというのを第一としているから。

理想は、地元のお客さまが、親戚や大事な来客があったとき、桜井甘精堂が良いよとオススメしてほしい。普段使いもしてほしい。
そうなると、絞ったメニューでは対応が出来なくなってきて。

一週間毎日来ても飽きないくらいのメニュー数は用意しておきたいから、メニューはどんどん増え続けています。

中山:「明日東京から娘が帰ってくるのよ〜」なんて、迷惑なフリをしているけれどニヤケが止まらないお母さんの姿が浮かびました。都会だと接客も無機質なものになってしまいがち。
顔見知りの待っているお店なら、毎日でも通ってしまいそうです。

小布施という地元を大切にされている桜井甘精堂さんですが、使用している栗のうち、地元産のものは何割くらいなのでしょうか?

桜井:甘精堂で4割くらいです。
正直に言うと、小布施の栗は使えば使うほど原価が高くなってしまうんです。輸送費を乗せた他県の栗より高い。

でもそれは、小布施の栗は保護作物だから。そうやって栗畑を守るのは必要なことだと思っています。

栗菓子で有名なのは、小布施、中津川、それから丹波・篠山。
この3ヶ所が栗菓子の盛んな場所なんだけど、他県は栗菓子屋はあっても栗畑は山の方にあって、近くにない。

栗畑を車で走ってきて2.3分後に栗菓子屋に入れるのは、小布施だけなんです。

だから、そういう意味では栗の里っていうストーリーが一番つけやすい。
町中が栗の花くさいのなんて小布施ぐらいです(笑)。

東京では一番にはなれないモンブラン?



桜井:うちのモンブランはケーキ好きの視点からすると、中途半端かなと思っていて。
マロンクリームが強すぎて他の具材が負けてしまうから、上から下のバランスはあまり良くないんです。

ただ、小布施という地域を含めた上で食べると、最高のモンブランになっています。



小布施にやって来る→栗畑を見る→小布施の栗菓子屋に入る→モンブランを食べる、とこの一連でストーリーが完成するわけです。

ここで大事なのは、栗の名所である小布施に来て、栗を食べるという地域を含めての流れなんですよ。

そういう意味では小布施っていうのは、栗菓子屋にとって商売しやすい場所だと思います。

中山小布施にはたくさんの栗菓子屋さんがあるのに、うまく棲み分けられていますよね。

桜井さん自身は、甘精堂はどんな位置づけだと思っていらっしゃいますか?

桜井:小布施には栗菓子屋だけで7件あって。そのうち大手3件、竹風堂・小布施堂・桜井甘精堂が御三家と呼ばれています。

御三家の店の作り方、商品の作り方、食事のメニューはすべて、見事にずらしてあるんです。

メニューを絞って時間のないお客さまにスムーズに出すという竹風堂さん、
コース料理で一品一品、時間をかけてゆっくりと、おもてなしする小布施堂さん。
だからうちにくるお客さま、竹風堂さんにくるお客さま、小布施堂さんにくるお客さまはそれぞれ全く違います。

うちはどこかっていうと、基本的には真ん中
やっぱり地元のお客さまを大事にしようと言うのが一番です。

メニューもどんどん増える中で、取捨選択の時期なのかなと悩むこともあって。
だからこそ、少なくとも地元のお客さまにとって、一番信頼される店でありたいなと、そういうつもりでいます。

栗菓子屋の老舗がシャインマスカットを売る?



中山:ありがとうございます。
最後に、来年で創業200年を迎える桜井甘精堂さんだからこそ、変えてきたポイント・変えずにきたポイントを、それぞれ教えてください。

桜井:そうですね…以前いただいたご意見で、はじめてうちの商品を食べて以来、ずっと贈り物に使ってきたけど20年ぶりに食べたら味が違った、というものがあって。

美化されているにしても、旧いお客さまがいっぱいいるからこそ、変えたい部分と変えられない部分が結構あったりします。

レシピについては、微妙に糖度を少し落としたりとかはあるけれど、基本的にはほとんど変えていません。

新しく始めたばかりなのが、体にやさしい食べ物の研究です。
炭水化物ダイエットが流行しているし、砂糖と炭水化物は女性の敵でしょう?(笑)。
だから食べても血糖値が上がらない、上がりにくい糖質を上手く使いたいなと考えています。究極はやっぱり薬膳

あっあと、そういう研究をしているとかならず土や農業の問題が関わってくるので、今年から耕作放棄地の開墾も始めました。
これは、街の風景の維持という意味もあります。

農業の観点からいうと、シャインマスカットって知っていますか?甘味が強く、種なしで皮ごと食べられるブドウ。
東京だと一房8000円くらい、長野だと1000円もあれば買えます。
さらに、実が楕円形でなく丸型になってしまったものは、ハネモノとして300円ぐらいで買えるんです。

驚いたことに、両方買って食べ比べると、丸型の方が美味しいんですよ。形が悪いから市場には乗らないけど、全然美味しくって。

(楕円型のシャインマスカット)


でも、ただ美味しいですよって訴えているだけでは信用してもらえないので、例えば丸型のシャインマスカットを使ったスイーツをお店で出して試してもらうことで、お客さまにも体感してもらう。

お菓子が農家の販売の導入口にもなれると思っています。これはお菓子屋にしかできないことです。

今は町のお菓子屋にとって、一番の競争相手はコンビニスイーツ
大変な勢いで町のお菓子屋が潰れています。
単にショートケーキを売っていても、コンビニにもあるし、さらに違うものも揃っているし、町のお菓子屋にいく必要がなくなってきていますよね。

町のお菓子屋が生き残るには、個性が必要です。

小布施には栗という個性がすでにあるにしても、その地域の特徴はこれからもっと必要になってくる。

少なくともうちは全国に通用する菓子を作ろうというよりも、小布施町で映える菓子を、という考えの方が絶対合っているんじゃないかな。

中山:ありがとうございました!





町のお菓子屋さんが、街の景観保護を考えていたり、農家さんの販路の入り口になろうとしていたり…。

お菓子屋さんって、職人気質の店主がおいしいお菓子をつくることに注力しているイメージだったのですが、甘精堂さんは、それにとどまらず地元に根付き、地域性があってこそ魅力が増す商品を生み出し続けていらっしゃいます。

「東京で食べても及第点のモンブラン」は、小布施の栗林をとおって葉っぱに触れイガグリを拾い、町並みを散策して…一連の過程を経てから味わうことで、100%の実力を発揮できるモンブランでした。

【この記事を書いたのは】

いけだ あやか

いけだ あやか

編集&ライター
上田市出身。蕎麦と生クリームとあんことコーヒーが好きな大学4年生。
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